岩崎忠好

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【町山智浩・春日太一の日本映画講義 時代劇編】(河出新書)を読んで

 深夜のbarで若い子を相手にウィスキーに関するウンチクなんかを語ってしまうと、翌朝起きた時に「俺、めんどくせーおじさんになってないか!?」などと自問自答したり反省したりするもんです。あっ、どうも岩崎(♂)です。 ウィスキーは同じ銘柄の商品でも樽の違いや熟成年数、ボトラーズによって味が変わってきます。 何せ僕はウィスキー初心者の子にはアイラ系のシングルモルトの飲み比べ(味比べ)をやらせるのですが、その味わいが分かる子は「潮の香りがする」「スモーキー」「柑橘系」「バターっぽい」など多彩な表現ができるもんです。さぞや人生にも彩りがある事でしょう。 その反面、味わいの分からない子は「正露丸臭い」の一言で終わりです。二度と誘いません。 時代劇もまた然り。その魅力が分からないという人の言い分は「古臭い」の一言で終わり。思考停止です。 昨今は時代劇にしろウィスキーにしろ、周りに教えてくれる人がいないと、その味わいを知らないまま一生を終えてしまうという人が増えてくるんでしょうね~。 そんなこんなで、今回ご紹介させていただく本は【町山智浩・春日太一の日本映画講義 時代劇編】(河出新書)という本です。 映画ファンなら町山さんと春日さんの名前がクレジットされているだけで買ってしまうんだろうな~(奥付の「注 作成協力:松崎まこと」にニンマリ)。

サンキュータツオさんの【もっとヘンな論文】(角川書店)を読んで

 パンツに関する研究を読んでいて、僕は子供の頃に観た映画【バック・トゥ・ザ・フューチャー】を思い出してしまいました。マーティのドタバタっぷりを笑いながも「大人になったらカルバン・クラインのパンツを履く様になるんだろうな~」なんて思っていた子供時代の記憶がフラッシュバックしてしまったのです。 実際に大人になった現在、無意識的にカルバン・クラインのパンツを履いている自分がいるのですが、今思えば【バック・トゥ・ザ・フューチャー】の影響が大きかったのでしょうねぇ。あっ、どうも岩崎(♂)です。 以前サンキュータツオさんの【ヘンな論文】という本をご紹介させていただきましたが、今回は【ヘンな論文】の続編ともいうべき【もっとヘンな論文】(角川書店)という本をご紹介させていただきます。 【ヘンな論文】でも数々の面白論文(研究者達はいたって真面目)が紹介されていましたが、【もっとヘンな論文】でも珠玉の珍論文が紹介されています。 まずは今回も目次の “コピペ” をご覧ください↓一本目  プロ野球選手と結婚する方法二本目 「追いかけてくるもの」研究三本目  徹底調査! 縄文時代の栗サイズ四本目  かぐや姫のおじいさんは何歳か番外編1  お色気論文大集合 五本目  大人が本気でカブトムシ観察六本目  競艇場のユルさについて七本目  前世の記憶をもつ子ども番外編2  偉大な街の研究者八本目  鍼灸はマンガにどれだけ出てくるか九本目  花札の図像学的考察十本目  その1 「坊ちゃん」と瀬戸内航路十本目  その2 「坊ちゃん」と瀬戸内航路 後日譚 どうですか! 面白そうなタイトルがずらりと並んでいますでしょうが~! これ全て研究者が本気で研究して発表した論文なんですよ! まずは、皆様が一番気になるであろう「お色気論文大集合」のパートですが、男女共に異性に着て欲しいパンツについての研究論文が紹介されていてます。「なぜそんな事を真剣に研究するのか!?」と疑問を持たれた方もいるでしょうが、新商品を開発している様な企業からしてみたら、その様なデータは喉から手が出るほど欲しいデータなのですよ。 ちなみに、カルバン・クラインの娘さんは、男性と “恋人関係” になった時、男性のパンツに “Calvin Klein” とお父さんの名前が書いてあるのを見てげんなりした事が多々あるそうです。僕は思いました…「娘さんよ、お父さんを責めないであげてくれ! 君のお父さんのこさえたパンツの履き心地は最高だぜぃ! 」と。 パンツの話はさて置いて、【もっとヘンな論文】でタツオさんが一番熱量を込めて紹介しているのは十本目の『「坊ちゃん」と瀬戸内航路 』でしょうね~。 「坊ちゃん」とは、夏目漱石が自分の体験をもとに書いた、日本人なら誰でも知っているであろうあの「坊ちゃん」です。 世に漱石に関する書籍は多いです。なんせ、生まれた日から亡くなった日までの可能な限りの資料を網羅した【増補改訂 漱石研究年表】なる本まである始末です。研究対象にするには “隙間” が少ない感は否めません。 ところがどっこい、『「坊ちゃん」と瀬戸内航路 』は「坊ちゃん」が松山に赴任する際に、どの様な日程でどの様なルートを使ったかを考察したという「そこに隙間がありましたか! 」と思わず膝を打ってしまう研究発表なんです。 まず大前提として【増補改訂 漱石研究年表】には “定説” とされている日程・ルートが掲載されています。 本流の漱石研究家からしたら “定説” に疑問を持つ事などはあまりない事なのでしょう。しかし、この『「坊ちゃん」と瀬戸内航路 』を書いた山田先生の本来の専門は「船」なのです…。 そうです、船の研究者の目から見た “定説” には沈没船の様に穴があいてたのです! この先生、当時の新聞や時刻表、はては船会社の社史までをも緻密に調べ、坊ちゃんが辿った本当の経路を「完全証明」してしまったのです! 当時の新聞や時刻表なんて、言葉にしてしまえば軽く感じるかもしれませんが、相当の情熱(変態性)がないとこんな作業できませんよ。【バック・トゥ・ザ・フューチャー】のドグの様にね。  世の中にはまだ日の目を見ていない珍論文がたくさんある事でしょうから、【ヘンな論文】はぜひシリーズ化してほしいと願う初夏の夕方でした。

レイモンド・チャンドラー(著) 村上春樹(翻)【プレイバック】(早川書房)を読んで

 ハードボイルドで一番有名な台詞「強くなければ生きていけない。やさしくなければ生きていく資格がない」“If I wasn’t hard, I wouldn’t be alive. If I couldn’t ever be gentle, I wouldn’t deserve to be alive.” を村上春樹さんはどの様に翻訳したのか!?   ばかりが注目されちゃうんだろうな~、【プレイバック】ではどうしても。僕はあえてそこにはあまり触れない事にしますよ。あっ、どうも岩崎(♂)です。 チャンドラー作品の中では【ロング・グッドバイ】【さよなら、愛しい人】より一段落ちだと思われがちな【プレイバック】でしょうが、僕は意外と好きですよ。純粋に面白いから。 それまでのフィリップ・マーロウが「お前は修行僧か!」とツッコミを入れたくなる位にストイックだったのに対し、【プレイバック】のマーロウは欲望に忠実(特に美人に対して)な、「だって、男なんだもの…」とフォローを入れたくなる程に親近感を覚える人物として描かれています。結局男は美人に弱い生き物ですが、ブルース感を漂わせる悲しい女達に対するマーロウ兄貴のツンデレっぷりはアッパレでござる!  特に美脚美人に対するマーロウ兄貴の対応は他人事とは思えんよ!!!   ハードボイルドとは「男のやせ我慢」的な事がパブリックイメージなのでしょうが、目線を変えると、これ極度のツンデレだよ! 最初の出会いで印象悪くて、次に出会った時には小粋なジョークでメロメロになってんっじゃん!   ハードボイルドの真髄とは「ツンデレ」だったんです。それが「強くなければ生きていけない。やさしくなければ生きていく資格がない」というフレーズに集約されていたのでしょうね〜。 一連のマーロウシリーズでは、マーロウの「孤独な男のセンチメンタリズム」が読後に何とも言えない心地よさとして漂ったもんですが、【プレイバック】のマーロウは最後にちゃっかりハッピーエンドの匂いを漂わせています。僕は思いました。「マーロウよ、今まで頑張ってきたんだから最後くらいは幸せになれ」と。そうです、【プレイバック】はマーロウシリーズの事実上の最終作でもあるのです。マーロウ乙~! ってな感じですよ。 日本の社会派ミステリーなんかを愛読している人からしたら、なんの脈略もなく急に危険を察知したり、初対面の謎の老人がペラペラとヒントの様な事を喋り出すのを「ご都合主義」と捉えるかもしれませんが、そんな固い事考えはエスメラルダの海にでも捨ててしまって、いい男といい女の小洒落た会話をウィスキーでもちびちび舐めながら楽しんではいかがでしょうか? 素敵な時間だと思わないかい?  あのキラーフレーズだけが注目されがちな【プレイバック】ですが、マーロウのハッピーエンドを皆で祝福してあげよではありませんか。その「やさしさ」が生きていく美学だと教えてくれたマーロウ兄貴に乾杯!