「実は、死にかけたことがあるんだ」と、帰り路でジュンが言った。深刻な顔だった。
ジュンは、よく頭を打っていた(理由は別の機会に書こうと思う)。ブランコから落ちて血塗れになったこともあったから、その類の話だろうと思った。
僕らの小学校には『隻眼の緑のおばさん』がいて、生徒らに怖がられていた。騒ぐと怒鳴られることもあったので、彼女の横を通りすぎてから話を続けた。
「どうして」
尋ねると、僕の想像の斜め上をいく答えが返ってきた。
できたてのサッポロ一番みそラーメンのスープを、ストローで吸った、というのだ。
熱々のスープは一気にジュンの食道に流れこみ、熱傷を負わせた。
「息もできなくて、ほんとうに死ぬかと思った」
戦慄を覚えた。
ホームで電車を待っているとき、そんなつもりもないのに、自分が線路にふらっと降りてしまうんじゃないかと怖くなる。一歩、さがる。
同様に、あの話を聞いて以来、サッポロ一番みそラーメンを作ると、自分がストローを持ちだすんじゃないかと怖くなる。一歩、さがる。
奇妙な衝動と、瞬間、対峙する。
自信がないわけじゃないけれど、最近では塩ラーメンだけを買うようにしている。
ジュンは他にもサッポロ一番について語っていた。
「あれだけは、麺がぐずぐずになるまで煮たほうが美味しいんだよ」
試してみると、確かに。僕の口にも合った。
ただし、塩ラーメンに限る。酒井。
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