赤い約束 〜ジュンと僕の物語6

僕は野球に興味がない。知識もない。

それでも、広島東洋カープには『渋い』という印象がある。ホームランではなくヒット、といった『地道さ』とでも言うべきか。

ジュンは、熱心なカープファンだった。

広島県に所縁があるわけでもないのに、前日の試合結果に一喜一憂している。現役時代を知りもしないのに、衣笠祥雄を尊敬している。

給食の時間になって、またカープの話になった。

「広島といや、お好み焼きだろう」


以下の会話は、どちらがどのカギカッコで話したのか憶えていない。

「そうだ。将来、俺たちでお好み焼き屋をやろうぜ」

「修行しなくちゃムリだよな」

「まだ中学、高校とあるだろ。大学も入れたらちょうど十年だ」

「じゃあ十年後、ふたりで広島に行って、一緒に修行して、東京で店を出そう」

「わかった。じゃあ十年後の今日、S町公園に集合。そのまま広島だ」


十年後、僕は公園へ行かなかった。

たぶん、ジュンも行かなかったろう。

『十年後の今日』という日付も判らなくなってしまった。ぼんやり、五月だった気がする。


将来の約束、というものは、齢をとればとるほど交わしにくくなる。それを履行することの難しさを、年々知っていくからだ。

社会に出れば自分の立ち位置も決まってしまい、その範囲内での自由が貴重になる。僕はいま、僕の自由が侵食されることが怖い。だから、誰とも将来の約束はしない。

小学生だった僕らには、簡単なことだった。

簡単なことだったから、簡単に破ってしまったのかもしれない。

もっと早いうちに気軽に約束をして、気軽に履行してよかったはずの案件もある。若気の至りとか、勢いとか、あってもよかったのかもしれない。


黒田が日本に戻ったとき、ジュンを思い出した。鉄人・衣笠が亡くなったとき、ジュンを思い出した。あいつはいまでもカープファンなのだろうか。

『渋く』『地道に』生きているのかな。

おっかない親方に怒鳴られながら、鉄板のまえで汗を拭い、揃いのTシャツで修行をする。東京に看板を掲げ、「ここからが勝負だぞ」と握手を交わす。

そんな『十年後』が、あったのかもしれない。

ふと『もみじ饅頭』のことを考え、モミジについて調べたら、広島県の県花・県木とのこと。一般に言う紅葉は楓で、語源は『カエルの掌』に似た葉だから『カエルデ』→『カエデ』。

県花ということは花が咲くのか? 見たことがないぞ、と思ったら『花弁は目立たなく小さい』と、ある。クライマックス『真っ赤』なくせに『渋い』。酒井。

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