おまえってヤツは 〜ジュンと僕の物語9

ジュンとトオルと僕。

三人組はいつしか、五、六人のグループになった。

小六の三学期。僕らは、ラジオドラマ制作に放課後の大半を費やしていた。

『ラジオ』とは名ばかり。それは無論、電波に乗るものではなく、ネットに上げられるものでもなく、公開予定のないドラマCDのようなものだ。

僕はBGMや効果音の編集と、録音・脚本を担当していた。あらすじを考えて提案し、誰がどの役を演じるか、台詞回しをどうするか、意見を交しあう。

打ち合わせも録音も、トオルの家だった。みんなにとっての中間地点だからなのか、居心地がいいからなのか。中庭にヤシやシダが繁茂する、白いコの字型の建物だったのを憶えている。

考えてみれば、そこが転勤族の社宅なのは明白だった。

その日も、僕らは録音をしていた。途中でトオルの母親がお菓子とジュースを出してくれた。一旦、休憩。ポテトチップスの袋を開いて、頭を捻る。

「あそこの台詞は入れ替えてもいいんじゃないか」「もっとアドリブやっていいよ」「ここで曲が流れるからタメが欲しいかも」。

そのタイミングで、トオルが切り出した。

「俺、引っ越すことになった」

全員が静止した。「中学から沖縄だ」と、彼は続けた。

当然のように、トオルとの中学生活を思い描いていた。その画がパリンと砕け散る、ベタな演出が思い浮かぶ。沖縄は、遠すぎる。


それからの一週間、ジュンと僕は奔走した。どうにかトオルだけでも残れないのか、僕の家に住まわせたらどうか、双方の家族に掛けあった。教師にまで相談した。

だが、当のトオルは既に諦めていた。たぶん、始めから解っていたのだと思う。

僕らは初めて『どうにもならないこと』に直面した。

この先、たくさん経験する『どうにもならないこと』の第一号が、トオルとの別れだったのだ。


放送部員でも演劇部員でもない僕らは、単なるオタクの集団だったのかもしれない。

公開しない音源。互いに読ませあうためだけの文章やマンガ。アウトプットは、なかった。

特に『演じているところ』はグループ外の人間に見られたくなかった。

それでも、決意する。小学校最後のお楽しみ会で、トオルを主人公にした劇をやろう。

内容は、謂わゆるシンデレラストーリーだった。苦境にある主人公が試練を乗り越え、成功する物語。

トオルへの餞と言ったら大袈裟だ。僕ら全員のための、思い出づくりだった。


あっという間に、当日がやってきた。

教室の机をさげて、教壇のうえにキャストがあがる。

クラスメイトらは膝を抱いて床に座った。私語を交わす者もなく、じっと観劇の姿勢だ。

こちらは目立つことが苦手なグループなので、もれなくガチガチ。稽古のときは大丈夫だったのに、棒読みでカミカミで、ぎこちない。

袖で音楽を流していた僕は、気楽だったと思う。「脚本家だ」という自負もなかった。

どうにか三十分弱が経過して、いよいよラストシーン。

資産家になったトオルが、散々彼を虐げてきたジュンをビジネスパートナーにする。「おまえってヤツは (なんてお人好しなんだ)……」と、ジュンが感涙にむせぶ、ハズだった。

まるで真空状態。

ジュンは固まったまま、その台詞を失念していた。劇そのものが固まった。静寂が教室を支配する。

プロンプターでもあった僕は、殺した声で「おまえってヤツは」を、袖から幾度も繰り返した。ジュンが我に返るまで、数秒が数分に感じられた。ようやく「あ」と、ジュンが気づいてくれた。

そして発せられた台詞。文言自体は間違いなかった、の、だが。

「おまえってヤツは!」と、憤怒に燃えたジュンがトオルに掴みかかったのだ。

僕は「違う違う」と青ざめたが、仲間たちは吹き出してしまい、楽屋オチさながらに舞台のうえだけが大爆笑となった。

なにが可笑しいのか、観客は呆然とするばかり。

単なる勘違いだったのだろうが、去っていくトオルへ、ジュンの本音が漏れたのかもしれない。これは僕の考えすぎ、か。

トオルとは、いまでも連絡を取り合っていて、たまに飯も食う。次に会ったとき、一緒に『ラジオドラマ』を聴き返してみようか。

沖縄まで訪ねて行ったこともある。その話はまた別の機会に。


僕とジュンは、中学に進む。

そこは、僕にとっての荒地だった。


酒井です。

この物語にお付き合いくださってる皆様、ありがとうございます。前回が折り返し地点でした。計画立ててリストにする作業が好きなので、最終話まで構成ができていたりします。

基本、週末に書き溜めて、週明けにチェックして、読んで戴いて問題ないかな?という文章能力で回しています。

ですが、先週末は書けませんでした。僕の画像がつまらないということで (ネコ要素皆無)、久々に伊豆に赴き、写真撮影をすることになったのです。

とはいえ。あくまで、記憶を基にしたフィクションですから。

あの町の風景を、そのまま載せるのもなあ……

と、躊躇しまして、駿豆線の先のほうまで行ってきました。途中で両親と落ち合い、ついでに温泉も満喫。台風が迫っていたので周囲は巡れず、旅館と車窓の風景しか撮れませんでした。

終始、ウルトラ曇天です。

いちばん衝撃を受けた画像を、先に公開します。

隣にも、ある。ごめんなさい、僕は一本目?しか観てないです。

フルにラップされた車両も走ってました。伊豆箱根鉄道さん、頑張ってますね。

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