ホセ・ドノソの【夜のみだらな鳥(水声社)】を読んで

 色々試してみてはいるのですが、自分で淹れるコーヒーがまったく美味しく感じられません。「お前は一生美味しいコーヒーを淹れる事が出来ないのじゃ~!」と魔女に呪いをかけられた可能性を考えてみたのですが、魔女に恨みを買った覚えもありません。あっ、どうも岩崎(♂)です。

 ラテン文学史上、G.ガルシア=マルケスの【百年の孤独】と双璧をなすといわれているホセ・ドノソの【夜のみだらな鳥】(水声社)が約35年ぶりに復刊されたので、今回は【夜の~】をご紹介させていただきます。

 冒頭の一行目からシビれました。そうです、この本を翻訳されてるのが鼓直さんなんです! 鼓さんといえばマルケスの【百年の孤独】【族長の秋】【無垢なエレンディラと無情な祖母の信じがたい悲惨の物語】やボルヘスの【伝奇集】の翻訳でお馴染みの翻訳家さんです。情熱とアンニュイ、卑猥と高尚、創世記であり黙示録でもある、という様な迷宮的な物語を翻訳させたらやっぱ鼓さんがピカイチなんでしょね~。

 【夜の~】は《ムディート》なる啞の男の一人称で語られる物語なのですが、その話はどこまでが現実でどこからが妄想なのか? 猥雑で狂的な強い言葉を使い、極端に改行を使わず、読者に考える隙を与えない文体でグルーヴを生み出すのは、まるでハードコア・ラップ。その世界に入り込んでしまい、ふと正気に戻った時に気がつくのは「ストーリーテラーが変わってる」。《ムディート》が語っていたはずなのに、いつの間にか別人が語っているじゃありませんか! 幻惑の極み!そもそも啞の《ムディート》がなぜ雄弁に語れるのか!? これは永遠に続くグロテスクな悪夢なのか?

 時系列も混乱する中、節々に現れる「黄色い犬」は一体何を暗示していたのか…。

 魔女の様な老婆集団がウロつく修道院。畸形児を集めて作った楽園。誰と誰が同一人物なのか? 《ボーイ》の父親は誰なのか? そもそも本当に《ボーイ》は誕生したのか?

 究極的にまで「美」を排除したこの物語で最も印象的だったのは、畸形の楽園に入った健常者は、その世界では醜い生き物になってしまう、というシュールレアリズムの絵画世界に迷い込んでしまったかの様な幻惑感でしょう。

 この本は素敵なラブストーリーを求めている人にはオススメできません! 悪夢にうなされてしまう事間違いなしです。そしてきっとコーヒーが不味くなります。

 迷宮世界を耽溺したいという活字中毒者だけにオススメしたい一冊でした~。

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