さて、第1話からここまで読み進めてくださった方の中には、すでに気がついている方もいるでしょう。この「ファクト」シリーズが、ウィトゲンシュタインの『論理哲学論考』をモチーフにしていること、そして、この物語が「第7話」で完結するということに。
哲学史上、最も有名なパンチラインの一つとして知られる『語りえぬものについては、沈黙しなければならない』という命題を残し、彼の著作は幕を閉じます。言葉で記述できる「事実」の限界を定め、そこから零れ落ちる神秘や倫理、価値については、安易な言葉を排して沈黙せよ――それが彼の誠実さでした。
しかし、同調圧力が重くのしかかり、閉塞感に包まれた今の時代を眺めるとき、私は彼の冷静な論理の先に、自分なりの一行を付け加えたくなります。
『語らなければならないことに関しては、決して口をつぐんではならない』
世界をより良く変えられる確証なんて、どこにもありません。それでも、私たちが「永遠の今」という比喩的な川岸に立つ主体である限り、沈黙がただの「見て見ぬふり」に成り下がるのを、私は許してはならないと思うのです。
……さて、チャーリー。難しい理屈はこれでおしまいです。言葉の檻の外側には、まだ君との穏やかな日常が広がっています。
語りえぬ幸福を、噛み締めながら。あっ、どうも。岩崎(チャーリーの飼い主)です。
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