にゃんにゃん探偵チャーリーの冒険 ~ザ・ゲーム~・第7話 『〝ゆきゆきて、神軍〟、あるいは言葉の通じない領域』

 今週も相変わらず仕事の波にドタバタと呑まれていまして、じっくりと思索に耽る時間なんてこれっぽっちもないはずでした。ところが、スマホの画面に飛び込んできたあるニュースに、私は思わず「えっ!?」と声をあげてしまいました。あの日本映画界の伝説的劇薬ドキュメンタリー『ゆきゆきて、神軍』が、なんとYouTubeで無料公開されたというのです。かつて映画館の暗闇で観客をドン引き(失礼、大震撼)させたあの怪作が、一体なぜ今、このタイミングでネットの海に放たれたのでしょう。ちょっとその意図を勘ぐりたくなってしまいます。

 映画の主人公である奥崎謙三は、終戦直後のニューギニア戦線で起きた兵士処刑とカニバリズムの真実を暴くため、生き残った元上官たちの元へアポなし突撃を繰り返します。元上官たちは忘れた振りをしたり、お役所言葉で責任をはぐらかそうとしたりするのですが、奥崎はそれを絶対に許しません。言葉の誤魔化しを力ずくで剥ぎ取るために、彼はかつての上官に「マウントパンチ」という剥き出しの肉体(リアル・ファイト)を使って、強引に相手を事実の場へと引きずり戻します。完全に社会のルール(言語ゲーム)からハミ出た狂気そのものなのですが、今の私たちが生きるこの社会の惨状を前にすると、この映画が持つメッセージが恐ろしいほどのリアリティを帯びて迫ってくるから不思議です。

 ひるがえって、現在の日本の最高権力者はどうでしょう。文春の音声データや週刊現代のサナエトークン報道といった、言い逃れのききづらいファクトがこれだけ揃っているにもかかわらず、「名刺交換をしていないから面識はない」などという、子供騙し以下のマイルールを都合よく捏造して平然としています。どれほどまともな言葉で問いかけても、人間としての基本的な対話のルールがまるで通じない。言葉が意味をなさず、ただ虚空で犬のおまわりさんばりに空転していく不毛な空間。先週私を悩ませた「カッサンドラ・シンドローム」の目眩は、今もこの国全体をじわじわと覆っています。

 権力者が言葉を私物化して対話が成立しなくなった社会で、そのおかしなルールをぶち壊すために現れるのが、奥崎のような「ゲームの破壊者」なのかもしれません。映画の無料公開に踏み切った人たちの胸中には、言葉を失い、川に毒を流され続ける現代の私たちに対する、「ちょっとこれ見て目を覚ましなよ」という切実な警告が込められているような気がしてなりません。

 人間の世界がどれほど言葉の嘘で塗れ、通じ合わないおかしなことになっていようとも、我が家には圧倒的な「真実(実体)」が存在します。

 チャーリー、君の要求には一分の嘘もありませんね。君がご飯を欲しがってニャーニャーと声をあげるのは、すっからかんな政治の答弁とは対極にある、完全なる生活形式の共有です。君が鳴けば、私は動く。この信頼の規則だけが、今の私の最大の癒しです。

 チャーリーの腹時計は、奥崎の突撃ばりの正確さで晩酌の時間を予言しています。今夜も彼の嘘のない瞳に見守られながら、美味いお酒を一杯やるとしましょう。あっ、どうも。岩崎(チャーリーの飼い主)です。

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