ポール・オースターの【幻影の書】(新潮文庫)を読んで

 なぜ今更ポール・オースターなのか!? と思われた方もいる事でしょうが、ア●ゾンのオススメに入っていたから何気なく買ったというだけで、特に深い意味はありません。あっ、どうも岩崎(♂)です。

 何気なく買った本が「当たり」だった時「勝った!」と思うもんですが、今回ご紹介させていただくポール・オースターの【幻影の書】(新潮文庫)は正々堂々と勝利宣言させていただきます!

 今まで僕はポール・オースターに関しては【幽霊たち】を読んだだけで、線で追ってる作家ではないので一概にはいえないのかもしれませんが、【幻影の書】を読む限り、ポール・オースターは映画愛に溢れた人なので、まずは映画好きな人に読んでいただきたいでござる! なんせ、インテリな映画評論家が書く様な「はぁ?」な論調ではなく「マジでLove」な方なので読み始めたら止まらなくなりますよ~ん!

 僕は物語の主人公の一人称に「僕」が似合うタイプを勝手に定義付けしています。それは「ナイーブでビターな性格。そしてただ静かに暮らしたい。ところがミステリーやトラブルになぜか巻き込まれる」といったキャラクターが一人称「僕」が似合うタイプだと思っています。【幻影の書】の主人公デイヴィッド・ジンマーも「僕」が似合うキャラだと思うのですが、翻訳された柴田元幸さんはデイヴィッドの一人称に「私」を選択してます。デイビッドの職業は学者なので、確かに「私」でも違和感なくなるんだよな~。読み進めて行くうちに。

 飛行機事故で最愛の妻子を亡くしたデイヴィッドは、コアな映画マニアにしか知られていない1920年代の無声モノクロ短編コメディ映画の役者であり監督の「ヘクター・マン」についての研究書を出版します。ヘクターはハリウッドで短編コメディーを12本作った後に失踪。デイヴィッドの本が出版された時点ではヘクターは約60年消息不明で、誰しもがヘクターは死んだものだと考えていました。ところがヘクターの消息に関する一通の手紙がデイヴィッド元に届くところから物語は展開していきます。手紙の内容に悶々とするデイヴィッドは街を離れ、人里離れた一軒家に引っ込みます。隠遁生活をしながらシャトーブリアンの翻訳作業をしているデイヴィッドの家に、顔に “痣” がある謎の美女が…。

 飛行機事故で妻子を亡くしたデイヴィッドが「ヘクター・マンをめぐる冒険」で飛行機に乗る事により「破壊と再生」を象徴している様に、この物語では「破壊と再生」が随所に見られます。

 また、この小説の面白さは、小説の中で映画を描き、その作中映画の中の主人公の小説家に小説を語たらせるという「多重構造」にあります。そして当時のアメリカの風俗産業などの通俗的な事にも触れ、あえて高尚なテーマからの脱線を図っているあたりは現代アート的なスタイリッシュさが感じられてかっこいいです。

「ドーランの下に涙の喜劇人」とは故・ポール牧さんが色紙に揮毫して有名になった名文句ですが、誰よりもドタバタの「大衆娯楽」を演じるコメディアンが、誰よりも苦悩する「アート」的存在なのかもしれません。でも、あまりそんな事ばかり考えていると、穏やかな気持ちでバカ殿を観れなくなってしまうので、コメディーを楽しむ時は脳みそをグニャグニャに柔らかくして楽しもうと決意をした春の午後でした。

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