どの様なジャンルでも、その黎明期においてはデタラメで荒削り、それでいてダイナミックな作品が多いのでしょう。最近、某動画配信サービスを利用して最初期の【サザエさん】を観ているのですが、第一回に放送されたのが『75点の天才!』『押し売りよこんにちは!!』『お父さんはノイローゼ』の3話。タイトルを見ただけで「いい臭い」が漂ってきますよね。あっ、どうも岩崎(男の方)です。
そんなわけで今回は山下泰平〔著〕【「舞姫」の主人公をバンカラとアフリカ人がボコボコにする最高の小説の世界が明治に存在したので20万字くらいかけて紹介する本】(柏書房)という「いい臭い」のするタイトルの本をご紹介させていただきます。
タイトルが長いので以下【舞姫ボコボコ本】と略させていただきます。
はっきりいって面白いです。全体を通して力を抜いた文体ではあるのですが、節々でキラッと光る切れ味鋭い刀で切ってくる様な表現(突っ込み)を織り混ぜていて、今年に入って(入ったばかりですが)一番笑わせていただきました。
小説が “発明” される以前の明治期、大衆娯楽物語は今我々が読んでいる様な体裁でもなく、内容のレベルも未成熟な “小説未満” の作品が大量に出版されていたとの事です。
今まではその様な “小説未満” のエンタメ作品群は日本文学史から黙殺され、ほとんどの作品が専門的に研究・評論されていなかった様なのですが、【舞姫ボコボコ本】ではその様な “小説未満” の作品を『最初期娯楽小説』『講談速記本』『犯罪実録』の3ジャンルに分けて紹介・解説してくれています。
どうでしょうか? 今の段階でサブカル人間やエンタメに携わる人間なら【舞姫ボコボコ本】を読みたくなってウズウズしているのではないでしょうか? もしくは、かつてはインテリから黙殺されていたB級C級映画をフューチャーし、後の映画界の潮目を変えた【パルプ・フィクション】を思い起こした人もいるのではないでしょうか。
【舞姫ボコボコ本】を読んでいて思ったのですが、はっきりいって明治期エンタメ作品群は【パルプ・フィクション】よりもバイオレンス&クレイジーです。その物語群の主人公達は、今我々が馴染んでいる様なヒーロー(及びダークヒーロー)像とは程遠い、もはや「アレな人」といって過言ではありません。
もちろん今とは価値観の違う時代ではありますが、明治期エンタメ主人公達は、敵対する人間(もしくは “ハイカラ” の様な気に入らない人間)に対しては、とりあえず「殺す」か「ボコボコにする」といった有様です。それも一人や二人ではありません。ホロコーストも真っ青です。
明治期の庶民は、その様な過剰な強さに憧を持っていたのでしょう。なんせ、徳川政権の残党や、明治政府に不満を持つ士族が反乱を起こす可能性があった時代です。さらに、日清・日露戦争といった政情不安ど真ん中の時代です。その様な時代では、お上やその他の何かを盲目的に信奉する『カルト』か、破壊衝動を爆発させる『アナーキー』か、全てを諦める『ニヒル』かになってしまうのは無理もありません。さらに、作家(及び制作チーム)のクリエイティブ能力がまだまだ低く、読者のレベルも低いといった事も相俟って「伏線を回収しない」「荒唐無稽」「でも面白い」といった独自のカオスで爆発的な世界観が誕生したのでしょう。
神話の世界でも最初にカオスがありました。宇宙では最初にビックバンという爆発がありました。きっちりしている人からしたらエンタメなんて単なる俗悪な世界かもしれませんが、カオスで爆発的なデタラメの世界観も面白いもんですよ。
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