戦力外のイヤミ 〜ジュンと僕の物語4

スクールカースト頂点からの転落。

それは、いともたやすい。

僕は小五まで、一軍に属していた。スポーツや勉強ができるヤツだったり、早熟を楽しみたい連中のグループだ。

それが突如、二軍落ちどころか『戦力外通告』を受けることになる。

シカトが始まって、学校で一言も発することがなくなり、五日くらい経過したろうか。

声をかけてくれたのが、トオルだった。

「酒井くんの家で遊びたい」と言われて、承諾した。

トオルが連れてきたのが、ジュンだった。

玄関先、内心で「げ」となった。ジュンに嫌われていると思っていたからだ。


小一の頃、僕は一度だけジュンの家に行ったことがあった。そのとき、なんの気もなく「家って、これだけなの。もう一部屋あるんだろ」と、口走ってしまった。

ジュンは苦い顔をして、僕を睨んだ。もやもやとした黒い汚泥のようなものが、僕の胃に湧いた。

その後のジュンについては、噂でしか知らなかった。当時人気だったゲームを、校内で誰よりも早くクリアしたという噂。お笑い番組やマンガ、アニメに詳しいという噂。


身構える僕とは裏腹に、ジュンは屈託なく僕の家にあがった。熱心にゲームやマンガの話をして、僕ら三人は大いに盛りあがった。

そして、小一以来でジュンの家にも行った。同じような失言をしないよう、気をつけた。

だが、親しくなるにつけ、ジュンが僕に「イヤミだね」と言うようになった。


僕の家は元々地主だったこともあり、小金持ちだ。親父が釣りを楽しむだけの、海辺の別宅も構えている。当然、自宅も広い。家政婦もいた。

最新のゲーム機やオーディオも買い与えられていて、そういう話をすると「イヤミだね」を食らう。僕らの関係性はそのままに、ジュンは「ほらでた。またイヤミ」というふうに苦笑いしていた。

気づく。だから僕は戦力外になったんだ、と。

一軍の連中は、僕の家を溜まり場にしていた。それだから問題ないだろうと、僕はイヤミな態度をとっていた。だけど、誰一人として「イヤミだ」と、口に出してはくれなかった。

もうひとつ気づいたのは、小一のときに胃の底に湧いた『黒い汚泥』の正体だ。あれは、自己嫌悪だった。振り返ると、その呼び名が最もフィットする。

生まれ育ちは変えられない。トオルのほうは妙に泰然としていて、なんの打算も偏見もなく、各々の小遣いや持ち物のことなど気にしなかった (彼がいま県警の少年課にいることは、至極当然のようで、県にとって適材以上の貢献だと思う)。

ジュンとトオルと僕は、最高の三人組になった。

僕の『失言』だと思えるような発言も、徐々に『ネタ』として扱われるようになり、互いが正直だった。いつしか、『何を持っているか』という『何』は『感覚』や『知識』に置換された。

自作のマンガや文章を見せあって、着眼点の違いに驚いたり、共感したり、笑いがたえなくなった。


一軍を追放されたとき、僕は中高一貫の私立校に進むつもりでいた。あと一年半、この公立小学校を我慢して、戦力外で切り抜けて、サヨナラすればいいと思っていた。

一年半が経って、僕はジュンと同じ公立中学校に進んだ。

僕らには、紙と鉛筆という戦力が与えられていた。

それがどういう内容かは、また別の機会に。

中学にあがってからも、不意に「イヤミだね」を貰いながら。僕らは、ほんとうに友達だった。

今後の展開に備えてのシリアス回でした。ともあれ、実際の記憶に基づいたフィクションとさせてください。酒井。

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