琉球の海 〜ジュンと僕の物語15

中学三年生になって、ようやくジュンと僕は同じクラスになれた。

一年生から一緒だったミツキも、だ。もしかしたら、教師の計らいかもしれない。

問題は起こしたものの、僕は出版委員長として年鑑の編集という大仕事を終えた。もはや学校は楽しむ場で、主戦場は放課後の塾となる。全国模試で、どこまで順位と偏差値を上げられるのか。勝負だ。


ミツキと僕は私立高校を受けるため、同じ塾に通っていた。塾の講師はおもむろに「十三年蝉を知っているか」と、演説を始める。

「十三年間を土のなかで過ごし、羽化して一週間、鳴き続ける。受験はその一週間なんだよ」

その後、十五年蝉大発生のニュースを見たのだが、揚げて食べると美味らしい。リポーターが恐る恐る口に運び、「うん、トロのようにコッテリしています」と言っていた。

なんのための十五年間だったのだろう。


塾のあと、午後の十時まで家庭教師がつく。志望校合格は、まず間違いない。

夏休みは、ジュンと卒業旅行へ行きたかった。

「二泊か三泊でいい。沖縄に行こう。トオルに会いに行こう」

受験とは無関係に、ジュンは首を横に振った。

「去年、青森に行っただろ。そんな金ないよ」

「旅費ならウチで工面できる。トオルの家に泊まるから、ホテルは要らないし。心配するな」

苦い顔をしながらも、ようやくジュンが同意した。沖縄へ行く。


ミツキはトオルと面識がなかったし、東京で夏期講習を続けることになっていた。机を並べ、数式を解いているときに彼がこぼした。

「俺の成績で入れる公立、ないんだ。塾にも通ってるのに」

なにが問題なのか、僕には解らなかった。

「私立に行けるなら、私立でいいだろ」

「受ける高校は私立で、かなり遠いんだよ。学費と交通費、親に返さなきゃならない」

親に金を返す。その発想も不可解だった。

「親だって、学費は承知の上だろう」

「だけど、俺が公立に行ければ全然違った。母さんは今日もパートだ」

首を傾げたままの僕に、ミツキが言い放つ。

「おまえみたいなヤツはさ、わかんなくていいよ。『パンがなければお菓子を食べればいいのに』って感じで、そのままでいいよ」

数年後、ミツキはバイトに励み、実際に交通費を全額返済した。学費は就職後に返していた。


三島から品川まで新幹線。そこから羽田に移動して、空路で那覇。

初めての飛行機に、ジュンと僕は大興奮だった。CAが飛行機の模型をくれたので「俺たち、ガキに見えるのかな」と笑った。少しも落ち着かない僕らに、CAは眉根を寄せていた。二時間半のフライト、少しも退屈することがなかった。

到着すると、空港でトオルが待っていた。

二年以上離れていたのに、そんな感覚は全くなかった。

ハブとマングースの対決は、動物愛護法で禁止になっている。それぞれを別個に見て、対決映像を観る。

国際通りなど那覇周辺を巡って、その日は寿司をご馳走になった。白身のネタがシャリの倍ほどの長さで、鮮やかな青い皮がついていて驚いた。ナポレオンフィッシュとのことだ。

夜は川の字に並び、布団のなかで話した。

「ハブとマングースはさ、やっぱりホンモノが見たかったよな」

「そうだ。ノゾミとトオルでさ、戦ってくれよ」

いつものように、ジュンが規格外の提案をする。

「なんでだよ」

「ノゾミはハブっぽいし、トオルはマングースっぽい」

僕らは釈然としなかったが、ジュンに言われると面白そうに感じる。「じゃあ」と、僕はハブらしく動いた。トオルはマングースのポーズをとった。

「これ、どうなったら決着がつくんだ」

「ハブが噛んだらハブの勝ち。押さえ込んだらマングースの勝ち」

「よし」と、トオルと僕は睨みあい、取っ組みあった。単純な遊びなのに、物凄く笑えた。

「噛んだぞ、ハブの勝ちだ」

「マングースのほうが先に勝ってたよ」

深夜まで、近況報告もしあった。聴いている音楽、夢中になっているマンガやアニメ、ジュンが好きなメイちゃんのこと。

偏差値も順位も、すっかり頭から消えていた。


翌日は、トオルの叔母さんが住んでいるムーンビーチのほうへ向かった。

三人、水着姿で撮った写真が手元にある。笑顔だ。僕らは焼津の頃ほど、怯えていなかった。ジュンは発作を抑える薬を飲んでいたし、水にも入った。

エメラルドグリーンの海。白い砂浜。

叔母さんの家で初めてスパムというものを食べさせて貰い、旨いと思ったのを憶えている。

僕がぶち壊しにするまでは、最高の旅だった。

なにが問題なのか、僕には解らなかった。

やってはいけないこと、言ってはいけないこと。十四年間、土のなかにいても、学びきれていなかった。


酒井です。間が空いてしまいました。

ここから先は書くべきか悩む事柄を含むため、慎重になっていました。そしてなにより、沖縄の風景写真がない。

どうしたものか。悩んでいたら、トオル(のモデルとなった友)から「東京の暑さは大丈夫か」といった趣旨の心配LINEを貰えたのです。素晴らしいタイミング。

さてここで、別の問題。僕が『僕らの思い出』を元に、これを書いていることを彼は知らない。白状すべきか否か。

思い切って「読んでもらえないか」とURLを送ってみました。

その結果やいかに。

沖縄旅行編後半と併せて、トオルの反応についても、次回へ続く。 

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