春日太一さんの【泥沼スクリーン(文藝春秋)】を読んで

 皆様は雪の日に部屋の窓を全開に開けて映画「八甲田山」を観るという遊びがあるのをご存知でしょうか? これは「ぷらすと」か米粒写経さんのライブのどちらかで春日太一さんが発表した遊びなのですが(【泥沼~】でもふれています)、僕の個人的見解としては「南極物語」や「シャイニング」でも臨場感溢れる「自宅アミューズメントパーク化遊び」を楽しめるのでは? と思ってます。あっ、どうも岩崎(♂)です。

 最近、ただでさえパツパツの本棚がそろそろ限界を迎えそうです。仕事柄、毎月版元さんから献本いただいている本も増える一方ですし、趣味で購入している本も増えるし…。特にここ3ヶ月は春日さんが連続して出版された本を購入したせいもあり、本棚の趣味のコーナーが暴発気味です。

 今回は、そんな我が家の本棚を圧迫している春日太一さんの最新刊【泥沼スクリーン(文藝春秋)】をご紹介させていただきます。

 サブタイトルに「これまで観てきた映画のこと」と銘打たれている【泥沼~】は、春日さんが文藝春秋にて連載している「木曜邦画劇場」を一冊にまとめた本です。内容としては春日さんの役者さんに対する異常な愛情や、ご自分の暗黒の青春時代の闇エピソードを織り交ぜながら、映画を紹介・評論している本なのですが、一筋縄ではいきません。「吉原炎上」と「クリーミーマミ」が同列に紹介されているというカオス感たっぷりの本(もはや魔書)です。特別企画として、ライムスターの宇多丸さんとの対談も収録されています。

 僕が【泥沼~】で取り上げてくれた映画で一番嬉しかったのは「うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー」です。ビューティフル・ドリーマーは星新一先生が『日本映画ベスト3作品』に選んだ程の秀作なのですが、飲み屋などで映画やアニメの話になった時にビューティフル・ドリーマーの話をふると「こいつ、変化球投げてきやがった…」みたいなリアクションを取られます。僕としては、ど真ん中にド直球を投げたつもりなのですが…。『映画好き』と言うと、高尚な文芸作品を屁理屈を混ぜながら語らないといけない様な風潮があって、誰しもが僕の様な苦い経験をした事があるでしょうが、安心してください。【泥沼~】では『面白い映画は理屈抜きで面白い!』 と肯定してくれます。春日さんは生涯に最も観た映画を「コマンドー」だと正々堂々と書いてます。そうです、何も考えずにハチャメチャな映画を楽しんでもいいんです!

 僕が春日さんの最も凄いな~、と思うところは、惜しげも無くご自分のコンプレックスを公表しちゃうところです。先月発売された【ボクたちのBL論(河出書房新社)】ではご自分の男性能力の低さを発表してましたが、【泥沼~】では、いじめの事に触れています。現実逃避するために映画館に行き映画を観るという…。「死にゆく者への祈り」のページでは《思春期に孤独をこじらせると、結果として痛い美意識にはまり込んでしまったりすることがある》と書かれていますが、ピーンときました。「死にゆく~」はIRAの暴力性と共に、《教会》の厳格で不条理なルールが描かれています。中上健次は【十九歳のジェイコブ】で、ジャズ喫茶が《教会》でジャズは《神》だったと書いています。

 思春期の春日少年にとって、映画館が《教会》で映画は《神》だったのではないでしょうか…。

 今やすっかり売れっ子になった春日さんを見て、映画の神もきっと喜ばれている事でしょう~。

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