特別好きではないけれど、何となく気になる相手… なんてのは誰にでもいる事でしょうが、僕にとって澁澤龍彦とは、格別好きではないけど、何となく気になる作家なのだな~ と思いました。本棚を整理していたら、予想以上に澁澤の本が出てきたのです。中には読んだ記憶が無かったり、買った記憶さえ無い本もある始末です。「こりゃ、知らぬ間に澁澤の黒魔術にかかってんな」といった感じでしょうか。あっ、どうも岩崎(♂)です。
最近、復刊本ばかり読んでいる事に気がつき「大丈夫か!? 俺の精神よ!?」といった感じですが、今回は澁澤龍彦の【貝殻と頭蓋骨】(平凡社)という、これまた復刊本をご紹介させていただきます。
【貝殻と~】は3部構成になっていまして、第1部が幻想美術の評論、第2部が中東旅行記やオカルティズム、映画評など、特に決まったテーマは無く、第3部が偏愛作家の解説・評論といった構成です。
まず第1部ですが、図版が1点もありません! おそらくは大人の事等があるのでしょうが、美術評論するのには、やはり図版が何点かあった方がいいかな~ と感じました。もっとも、今ではネットで検索すれば有名絵画なんてすぐに見られますが、澁澤がどの様な幻想美術を偏愛したかを知りたい場合は、澁澤編【世界幻想名作集】(河出書房新社)の巻頭・巻末に【貝殻と~】にも出てくる画家の絵画が数点掲載されているので、合わせて見るのも面白いかと思われます。【貝殻と~】第1部を読んでからギュスターヴ・モローの絵を見るのを僕はオススメしまーす。
第2部の中東旅行記になりますと、行く先々の女性のファッションをチェックしたり、キャビアとワインを楽しんだりと、かなり肩の力を抜いて書いた感じがします。というか、完全にはしゃいでる感じすらします。澁澤が子供の頃に読んでいたという絵本「アラビヤン・ナイト(P.161 “絵本について” 原文ママにしましたが、おそらくは「アラビアン・ナイト」かと)」に想いを馳せていたのかもしれません。
オカルティズムは今では「心霊術」や「神秘学」なんて翻訳される場合が多いでしょうが【貝殻と~】によると、当初澁澤は「隠秘学」という言葉で統一したかったみたいです。今や「ドS」や「ドM」なんて言葉は日常語として定着し、初対面の人にですら「どっち?」か聞かれるくらいにポップな言語になりましたが「隠秘学」は定着しませんでしたね~。
第2部 “過ぎにしかた恋しきもの” では「原則として、思い出の品は手もとに残さない様にしている」と書いてありますが、第3部 “琥珀の虫” では三島由紀夫からの招待状を残してあるという… 何だかBL的要素を感じちゃいました。池田満寿夫を含めた三角関係!? にもヒリヒリ感満載でござる!
“岡本かの子” “中井英夫” “小栗虫太郎” の各論は、芯を食った論で読み応えがありました。「一般に信じられているほど中井氏は芸術至上主義者ではない」とこちら側(読者)の思い込みを指摘し、「虫太郎の小説は、あたかも作者が専制君主のように、カリスマのように、私たちを呪縛し、魅了し、かつ慴伏せしめるのだ。本来の推理小説が民主主義的な装いを凝らしているとすれば、こちらは明らかに独裁的、専制主義的であろう。反逆者や不平分子は、神聖虫太郎帝国から追放されるしかないのである」と読書選民思想の様な事をサラッと書いちゃうところは、さすがだな~ と感心するしかありません。
もし、今の時代に澁澤が生きていたら… と考える時があります。最近の映画や作家を澁澤が評論したらどんな事を書くのだろう? 願わくば “ヱヴァンゲリヲン” なんかを論じてくれたら面白そうだなんて思うのは、澁澤的に表現すると「ロマン主義者のノスタルジー」なのでしょうね 〜♪(´ε` )
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