ミシェル・ウエルベック著【服従】(河出文庫)を読んで

 昨年末、とあるパーティーで知人の娘さんから教えてもらったのですが、今の若い子たちはスマホに某アプリをインストールする事により、map上で互いの居場所を確認し合う(監視し合う)という習慣があるそうです。

 その(それぞれの)コミューンに加入するためのイニシエーションという意味もあるのでしょうが、正直いっておじさんには理解できませんよ! そんなアプリは!

  人間は自由を勝ち取るために戦ってきたはずなのにねぇ〜。

 ジョージ・オーウェルの【1984年】では、人々が「テレスクリーン」というタブレット端末を持って、互いに監視し合う近未来が描かれていたもんですが、単なるエンタメ(フィクション)だった作品が『予言の書』になってしまったわけです。まさか本当にこんな時代がやって来るとは…。あっ、どうも岩崎(男の方)です。

 今回ご紹介させていただくミシェル・ウエルベック著【服従】(河出文庫)もひょっとしたら『予言の書』になるかも…。

 近未来(2022年)のパリ。『ぼく』は19世紀のデカダンス作家ユイスマンスの研究者で、パリ第三大学の教授職にある中年独身男性。『ぼく』は毎年新入生の中から恋人を選んでいるのだが、最近のお気に入りはユダヤ人の恋人。

 フランスではその年、大統領選挙でウルトラ右翼の国民戦線党首マリーヌ・ル・ペン(あのル・ペン)が第1位になり(【服従】では実在する政治家や作家、ジャーナリストが多数出て来る)、第2位のイスラム同胞党の候補モアメド・ベン・アッベスと決戦投票する事に。不穏な空気を察知した恋人(とその家族)はイスラエルに移住(非難)してしまう…。

 一方大学では、イスラム系オイルマネーが経営母体になり、『ぼく』を含め、教職員は全員解雇。再雇用の条件はイスラム教に改宗しなければならないという…。


 さてさて、【服従】では大雑把にいうと2つの『服従テーマ』が読み取れました。「再雇用の条件が改宗(信教の “自由” を奪う『服従』)」と「女性の幸せは男性に完全に服従すること(女性の “権利” を奪う『服従』)」なのですが、これは今現在は完全否定できるテーマなのでしょうが、「しょせん物語」と侮ってはいけないテーマだと思います。

 フランスをはじめ、ヨーロッパ各国からは移民問題、テロ、極右政党の台頭などのニュースがたびたび耳に届いてきます。先にも述べましたが【1984年】の様に「まさか本当にこんな時代がやって来るとは…」という事もあり得ます。

「何をそんなに怖がって」と思う方もいることでしょ。

 しかし、【服従】を読んでいて思ったのですが、極右思想とイスラムの教えには「家父長制」「男尊女卑」「同性愛者排斥」「アンチ・ユダヤ」など共通点が多いのです。もちろんイスラムにも穏健派は大勢いますが、根本思想が似ているアレとアレが連立なんて組んだらマジでアレですよ!!!

【服従】が『予言の書』でない事を祈るしかないのですが、ウエルベックは【プラットホーム】という本でも何気に予言めいた記述が当たった様な気がするのでホントにヤバイ予感が…。


 また、全編を通して触れられているユイスマンスは、澁澤龍彦〔訳〕の【さかしま】が比較的手に入れやすいと思いますから、興味のある人は合わせて読んでみてもいいかもしれませんよ〜。

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