万緑の荒野 〜ジュンと僕の物語10

中学生になる、ということ。

それは、誰にとっても大きな節目だ。僕にとっては、高校生・社会人になったときよりも重大な転換期になった。

六年間を過ごした校舎に別れを告げ、真新しい制服に袖を通す。いよいよ今日から、だ。

入学式。校長の祝辞のさなか、僕は見事にぶっ倒れた。

単に緊張していたせいもあるが、血の気が引くほどに『あること』を危惧していたのだ。まず、ジュンと同じクラスになれるのか。次に、小学校時代の一軍連中と距離がとれるのか。

(第4話『戦力外のイヤミ』参照)

結果、ジュンはA組で、僕はC組。一軍の半分以上がC組だった。最悪だ。

学区外から越境入学までして、ドツボにはまった。


ジュンと親友になったのは二年前、小五になってからだ。

十二歳にとっての二年間は、人生の六分の一。その六分の一の密度を、僕は信じた。休み時間や下校時、放課後は、変わらずジュンと過ごせると思っていた。

だがここに、クリーニング屋のユウキという『壁』が立ちはだかる。

同じA組のジュンとユウキは、瞬く間に意気投合し、ふたりで下校するようになった。ジュンと僕が不仲になったわけではなく、休み時間はジュン、ユウキ、僕の三人で過ごしていた。しかし、ふたりの会話に入っていけない場面が多くなった。

トオルを失ったことは、大きい。


一学期の中盤になると、孤立無援になった僕に一軍が目をつけ始める。

朝、下駄箱から上履きが消えていた。休み時間明け、教科書がゴミ箱に捨てられていた。誰も僕と口をきかない。用務員から借りた、来客用のスリッパ。その履き心地の悪さを、いまでも憶えている。

それだけで済めばよかった。

ある放課後、一軍のイナバが廊下で僕を突き倒した。フランケンシュタインにソックリな、大柄なヤツだ。壁に押しつけられ、逃げ場がなくなった、そのとき。「ここで負けちゃいけない」という焦燥に駆られた。

辺りを見回す。ぐるりと取り囲む野次馬のなかに、一軍で最も小柄なオガワがいた。

あいつから潰せばいい。あいつを泣かせたら、他のヤツは怯む。

「なに見てんだよ」と彼に因縁をつけ、僕はイナバの標的から外れた。そして、オガワが血を流して泣くまで、攻撃をやめなかった。野次馬は散り散りになり、何人かが教師を呼んできた。

もはや、イナバは呆然と立ち尽くすのみ。僕は呆然の胸ポケットから生徒手帳を引っぱり出し、窓外に投げ捨てた。それは、狙ったかのように池に落ちた。


職員室で、僕は担任に絞られた。「なぜやったのか」は訊かれず「なぜおまえが悪いのか」を切々と諭された。「胸に手を当てて、よく考えてみろ」。そう言われた。

この一件のことは、ジュンの耳にも入っていたはずだ。

だが、ジュンはユウキと遊ぶことに夢中だったようだ。もしくは、暴力を振るった僕を、非難がましく見ていたのかもしれない。

携帯電話を持たされていなかった僕は、公衆電話から沖縄に発信した。久しぶりでトオルの声を聞いて、泣けてきた。長距離なので、持っていた百円玉ぜんぶを費やしても数分しか話せなかった。それでも、充分だった。

これでまた、学校でも家でも泣かないままでいられる。

中学の三年間、僕は絶対に人前で泣かなかった。

このままではいけない。それは解っていた。

僕が発信したのは沖縄へ、だけではない。

小学校時代、自作の文章やマンガをジュンと見せあった。ラジオドラマ作りにも熱中した。ジュンへの発信ツールはコレだ、と、思った。

出版委員会と演劇部。僕はこのふたつに所属して、立て直しを図った。


酒井です。この記事は始めから書くつもりだったのですが。思った以上にダークになってしまった。しかも画像はウルトラ曇天

とはいえ、次回からは読みやすい内容にできると思います。

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