時は前後して。これは、中学生の僕が『立て直しを図るまで』に起きたこと。
つまり、ジュンと離れている間に起きたこと、だ。
一学期が終わるまで『オガワ襲撃事件』の余波は続いた。
僕は既に出版委員会に属していたが、記者が事件を起こしていては世話もない。演劇部への中途入部も滞っていて、くさくさした日々だった。
とはいえ、一軍からの嫌がらせは凪いだ。シカトだけなら楽なものだ。
楽になると他人のことが見えてくる。
小学校時代、同じグループに属していたナベチン。どうやら彼が、壮絶な窮地に陥っている。
ナベチンの敵は一軍よりも強大な存在、『女子』と『バレー部の先輩』だった。このふたつは絶対に敵に回してはいけない。
まず、女子の『ナベチン吊るし上げ計画』が耳に入った。虚勢を張った彼が「あいつとヤッた」と空言を吹聴したため、その子を中心に憤激が渦を巻いている状況だ。
なんてことやらかしたんだ、ナベチン。
さらに、『廊下で会釈をしない』などの無礼が、バレー部の先輩たちを烈火のごとく怒らせている。上階から長身の集団が「ナベはどこじゃ」と喚きながら降りてきた。
そんなんなら運動部に入るなよ、ナベチン。
自業自得だ。彼とはそこまで親しくない。助ける気もなかったが、知らせておこうとは思った。
「いまからくるぞ」
「え、どうしよう。どうしたらいい」
「逃げたら」と返したら「どこに逃げればいい」と、彼はノープラン。仕方がなく、僕はナベチンを中庭に避難させた。
彼は藤棚のしたに、二時間くらい隠れていたと思う。
数日後、結局ナベチンは両グループから吊るし上げを食らった。端で見ていても恐ろしかった。
いっときでも匿われたことを恩に着たのか。
それ以降、ナベチンが僕の鞄持ちを始めた。持たせたつもりはない。奪われたようなカタチだ。
こちらは越境なので、電車通学なのだが。連日、家までナベチンがついてくる。「やめろ」と言ってもついてくる。玄関先で「じゃあ、また明日」と去っていく。
そのときの気分の悪さと言ったら、筆舌に尽くしがたい。
「頼むから」と懇願して、やめて貰った。健全な友人関係が懐かしい。
僕は演劇部への入部を急いだ。
ジュンを誘う口実を、躍起になって模索した。
近頃、職場のパワハラや『マウンティングおじさん』が話題だ。もちろん不愉快な話だが、世の中には『パシリ体質』のひともいる。
前者には自覚がないことが多いが、後者には自覚があったりする。
そのためか、拒絶をすると著しい恨みを買うことがある。相手の「良かれと思って」を、踏みにじったような図式になってしまうのだ。
こういうのは僕にとって空恐ろしいことだ。
ナベチン、俺の鞄を持つくらいなら、バレー部の先輩に会釈をしろよ。
酒井。
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