ついてくるナベチン 〜ジュンと僕の物語10.5

時は前後して。これは、中学生の僕が『立て直しを図るまで』に起きたこと。

つまり、ジュンと離れている間に起きたこと、だ。


一学期が終わるまで『オガワ襲撃事件』の余波は続いた。 

僕は既に出版委員会に属していたが、記者が事件を起こしていては世話もない。演劇部への中途入部も滞っていて、くさくさした日々だった。 

とはいえ、一軍からの嫌がらせは凪いだ。シカトだけなら楽なものだ。 

楽になると他人のことが見えてくる。 

小学校時代、同じグループに属していたナベチン。どうやら彼が、壮絶な窮地に陥っている。 


ナベチンの敵は一軍よりも強大な存在、『女子』と『バレー部の先輩』だった。このふたつは絶対に敵に回してはいけない。 

まず、女子の『ナベチン吊るし上げ計画』が耳に入った。虚勢を張った彼が「あいつとヤッた」と空言を吹聴したため、その子を中心に憤激が渦を巻いている状況だ。 

なんてことやらかしたんだ、ナベチン。 

さらに、『廊下で会釈をしない』などの無礼が、バレー部の先輩たちを烈火のごとく怒らせている。上階から長身の集団が「ナベはどこじゃ」と喚きながら降りてきた。 

そんなんなら運動部に入るなよ、ナベチン。 

自業自得だ。彼とはそこまで親しくない。助ける気もなかったが、知らせておこうとは思った。 

「いまからくるぞ」 

「え、どうしよう。どうしたらいい」

「逃げたら」と返したら「どこに逃げればいい」と、彼はノープラン。仕方がなく、僕はナベチンを中庭に避難させた。

彼は藤棚のしたに、二時間くらい隠れていたと思う。


数日後、結局ナベチンは両グループから吊るし上げを食らった。端で見ていても恐ろしかった。


いっときでも匿われたことを恩に着たのか。

それ以降、ナベチンが僕の鞄持ちを始めた。持たせたつもりはない。奪われたようなカタチだ。

こちらは越境なので、電車通学なのだが。連日、家までナベチンがついてくる。「やめろ」と言ってもついてくる。玄関先で「じゃあ、また明日」と去っていく。 

そのときの気分の悪さと言ったら、筆舌に尽くしがたい。 

「頼むから」と懇願して、やめて貰った。健全な友人関係が懐かしい。

僕は演劇部への入部を急いだ。

ジュンを誘う口実を、躍起になって模索した。 

近頃、職場のパワハラや『マウンティングおじさん』が話題だ。もちろん不愉快な話だが、世の中には『パシリ体質』のひともいる。

前者には自覚がないことが多いが、後者には自覚があったりする。 

そのためか、拒絶をすると著しい恨みを買うことがある。相手の「良かれと思って」を、踏みにじったような図式になってしまうのだ。

こういうのは僕にとって空恐ろしいことだ。 

ナベチン、俺の鞄を持つくらいなら、バレー部の先輩に会釈をしろよ。

酒井。

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