【これまでのあらすじ】
チカンの冤罪でオトンが失業した。一家は芦屋の豪邸から恵比寿のあばら家に転居。
その後、オトンは貧乏暮らしの姉弟を残して失踪。
法学部で弁護士を目指す弟・馨のために、姉・未散はキャバ嬢になった。
なんやかやで未散にストーカー行為をするようになったコンビニ店員・善光はイイ奴だった。しかし、なんやかやで未散の上客になったIT社長・英司は厄介だった。
善光と馨は大学の同級生と判明。未散の親友・茉莉花は善光に一目惚れした。
一方、運転免許証取得の合宿で、馨は葵という女子と出会う。合コンで再会し、メルアドをゲット。
(*このプロットを書いていた頃、LINEなんてモノは影も形もなかった)
「メルアド……メルアドゲットやぁ……。せやかて鼻持ちならんオンナやし……なんも嬉しいことないでぇー!!」
朝イチ。布団の中で叫ぶ馨。勢い良く襖を開けると、ちゃぶ台に頬杖を着いた未散。
「あら、かおるくんおはよう。きょうもはやいのね」
皮肉たっぷり。
「かおるくんにつたえたいことがあったのよ。ゆうべ、るすでんに……」
「ミチル、もうええわ。僕が馬鹿やった。東京弁は止めや」
「ほんなら、言うで!留守電聞いたらな、保奈美ちゃん東京来る言うてたわ。しばらくウチに住むやて」
「保奈美が !??」
月野保奈美(20)。小さい頃から馨を追い回していた大阪のハトコである。馨はそんな保奈美がうっとうしくてうっとうしくて堪らなかった。そんな保奈美が居候……。
「あかん、またストーカーや」頭を抱える馨。
学校ではメールの送信ボタンが押せず、悩む馨。裕也はエリとうまくいっているらしい。悶々としていると善光が声を掛けてくる。「やあ!」
学食、図書館、中庭。しつこく付きまとい、未散のことを訊いてくる。
イライラしながら夕食の買い出しを終えて家に帰る。すると……
「かおるくーん!!」
いきなり保奈美に抱きつかれた。家のなかからは美味しそうな夕食の香り。
座敷では、未散と茉莉花と、善光までもが、ちゃぶ台を囲んでビーフストロガノフを食べている。モグモグと口を動かしながら未散が言う。
「あー、おかえり馨君。保奈美ちゃんのビーフなんとか、めっちゃうまいでぇ」
「……こんな高カロリーのもん食うてなぁ。太っても知らんで……」
ようやく馨が声を絞り出した。保奈美はピカピカの笑顔。
「きょうからはホナがお夕飯作ります☆馨君はなんもせんでええんよ」
「ええヨメや!ガハハハ!」
立て膝で高笑いの未散。茉莉花が「ホンマやわぁ」、善光が「良かったな!馨君!」。
『最近、家にやたらと人が集まります。挙げ句の果てには居候まで転がり込んで、オレはノイローゼになりそうです。こんなオレと遊びませんか』
自室の布団に正座して、しかし脱力しながら、やっとで馨は葵にメールを送ることができた。
「あかんやろ……あかんやろなぁ……」
布団に突っ伏す馨。そこにメールの着信音。『いいよ、いつ?』そんな短いメールに感激を噛み締める。
出勤した未散。「VIPルーム、ご指名だよ」の言葉も、ちっとも嬉しくない。
「よう来たな……まぁ飲めや」
「それがVIPに対する言葉かな?キミは本当に面白いコだね。のめりこんでしまいそうだよ」
相変わらずトばしている英司である。
「これ、僕セレクトの『福袋』さ。開けてごらん?」
紙袋を手渡され、開くと、出るわ出るわ『カルティエ』『シャネル』『ヴィトン』……。
「ほな、遠慮なく」と、受け取る未散。ノロノロと水割りを作る。「ドンペリ入れてよ」いたずらっぽく微笑む英司にゾーッとする。
「ほな……遠慮なく」
ドンペリを開けると、英司が語りだした。
「僕ね、九州のみかん農園の生まれなんだ。両親は要領が悪くて家計は火の車だった……。妹を大学まで出してやったのは僕なんだよ。小さい頃、よく僕を叱った親父は小さくなって……母さんの手術費用を出したときは僕に土下座したよ。キミはいつまでも僕を怒鳴りつけてくれそうだ。なんだかホッとする」
「……」しばらく考えて「ほな、これからは優しくしましょ」未散はわざと冷たく言い放った。
深夜、未散が帰宅すると、善光と茉莉花と保奈美がバカ騒ぎしていた。
やれやれと、馨の寝室を覗くと……。「ぶーっ!!」未散は噴き出した。
「鼻パック!鼻パックや!!」
馨の顔面を指差し、未散は笑い転げる。
「ナニ笑うてんねん!! 僕かて年頃の男の子や!!」
ふーっと笑い終えて、馨と向かい合って座った未散は
「ええ子や。馨とおれば、うちはいつでも笑顔になれるんやで」と、馨の頭を撫でた。
「なんや、鼻パックくらいで。アホらし」馨は恥ずかしそうにうつむいた。
『それじゃあ、どこまで優しくしてくれるのかな』
布団に入って、店で英司に言われたことを思い出す。
『正直、僕も忙しい身だからね。毎晩ここに入り浸るわけにはいかない』
寝返りを打つ未散。
『キミが僕の帰りを待っていてくれたら最高なんだよね』
テーブルに差し出された鍵。
『お父さんの借金……馨君の学費……なにも心配はいらないよ。ここで働き続けなくてもいいんだ』
「うちは、アンタがおらんかて売れっ子や。アヤノも歯ぎしりして悔しがっとる。うちが盛り上げると、みんなが喜ぶ。それでええんや」
布団をかぶって呟く。
『なにも心配はいらない。馨君だってキミの心配をしなくて済むんだよ』
「馨はそんな子ちゃう。馨はうちの世話を焼くのが好きなんや。うちがおらんようなったら馨かてガックシや!」
布団からガバッと起き上がる。「せやせや、アホらし!もう寝よ!」
再び布団をかぶる未散だが、安眠することはできなかった。
まずは、あけましておめでとうございます。春節でしたね!
最近、お仕事でネイティブ関西弁の方とご一緒する機会が多かったので、かなり恥ずかしい更新っす。
わたしは東京しか知らないんですが、たま〜に母譲りの伊豆弁が出ちゃうことがあるんです。
「〜ら」「〜だら(だろう)」「〜じゃ(じゃん)」などです。
母が「〜ずら」と言ってるのは聞いたことがありません。
一般的に『伊豆弁=ズラ』なのが不思議です。攘夷がJOY!!……ってヅラネタ。
0コメント